人は他者を通じて人となる/ 南アフリカ共和国

南アフリカ共和国のズールー語のことわざ「Umuntu ngumuntu ngabantu」について、その意味や背景、重要性についてご説明します。

「Umuntu ngumuntu ngabantu」の意味と語源

「Umuntu ngumuntu ngabantu」は、直訳すると「人は他者を通じて人となる」という意味です12。これは、人間の相互依存性や共同体の重要性を表現しています。この言葉は、南アフリカを中心とするバントゥー系言語圏で広く使われている「Ubuntu」（ウブントゥ）哲学の核心を表すものです1。「Ubuntu」という言葉自体は、「ubu-」（人間性）と「-ntu」（個人の独自性）という2つの部分から成り立っており、人々の相互のつながりと個人の価値の両方を認識する概念を表しています2。

Ubuntuの哲学と「Umuntu ngumuntu ngabantu」

Ubuntuの哲学は、個人主義的な西洋哲学とは対照的に、共同体の中で個人が形成されるという考え方に基づいています。「私は考える、ゆえに我あり」というデカルトの言葉に対して、Ubuntuは「我々があるゆえに、私がある」という考え方を提示します2。この哲学では、人間は他者との関係性の中で自己を実現し、人間性を獲得すると考えます。つまり、個人の存在や価値は、他者や共同体との関わりの中で初めて意味を持つのです3。

社会的・政治的影響

「Umuntu ngumuntu ngabantu」に代表されるUbuntu哲学は、南アフリカの社会や政治に大きな影響を与えてきました。特に、アパルトヘイト後の南アフリカの民主化過程において、この考え方は重要な役割を果たしました。ネルソン・マンデラ元大統領は、和解と赦しの精神を推進する上で、Ubuntuの概念を活用しました4。真実和解委員会の活動においても、Ubuntu哲学は中心的な役割を果たし、分断ではなく和解、復讐ではなく理解を促進する基盤となりました3。

現代社会におけるUbuntuの意義

現代のグローバル社会において、「Umuntu ngumuntu ngabantu」の精神は、人々の相互依存性や共同体の重要性を再認識させる役割を果たしています。南アフリカ政府は、Ubuntuの精神を再び喚起し、社会の結束や相互扶助を促進するための取り組みを行っています。例えば、貧困層への支援、高齢者の手助け、チャリティー活動への参加、食料支援などを通じて、共同体の絆を強化することが奨励されています6。また、犯罪対策や若者の支援など、社会の様々な課題に対しても、Ubuntuの精神に基づいた取り組みが行われています6。

結論

「Umuntu ngumuntu ngabantu」というズールー語のことわざは、単なる言葉以上の深い哲学的・社会的意味を持っています。それは、人間の相互依存性を認識し、共同体の中で個人の価値を見出す考え方を表現しています。この考え方は、南アフリカの歴史的な和解プロセスにおいて重要な役割を果たし、現代社会においても、人々のつながりや相互扶助の重要性を再認識させる役割を果たしています。グローバル化が進む現代において、「Umuntu ngumuntu ngabantu」の精神は、私たちに人間性の本質と共生の重要性を思い起こさせる貴重な知恵といえるでしょう。