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時間の倉庫

AIショートショート

山田敏郎は不動産管理会社に勤める40歳。今日も倉庫の整理が仕事だった。今回の現場は、古い町工場の跡地にある大きな木造倉庫。まるで時間が止まったかのような、重々しい空気が漂っていた。

倉庫の奥、埃だらけの棚の最上段に、大小さまざまな目覚まし時計が整然と並べられているのを発見した。彼は脚立に登り、最も古そうな一個を手に取った。真鍮色の風合いで、明らかに戦前に製造されたものだった。

裏面には小さな文字で「使用禁止」と記されている。山田は首を傾げた。なぜこれほど多くの時計が、使用禁止なのか。すべての時計が午後3時で止まっていることにも、不自然さを感じた。

好奇心に駆られ、彼はその最も古い時計のネジを、わずかに巻いた。その瞬間、倉庫全体が歪み始めた。壁は液のように揺らめき、床は波打ち、彼の周囲の空間が溶けるように変形していく。

目を開けると、山田は全く同じ構造の別の倉庫にいた。埃は同じ。棚の配置も同じ。しかし窓から見える外の景色だけが、わずかに異なっていた。

今度は棚の上の時計群に、微妙な変化があることに気づいた。先ほどまでの時計とよく似ているが、細部が少し違う。そして、これらの時計の裏面には「警告」と書かれていた。

山田は冷や汗をかいた。自分が今どこにいるのか、何が起こったのかわからない。彼は再び同じ古い時計を手に取ろうとしたが、その瞬間、倉庫全体が明滅し、元の空間に戻っていた。

机の上に、先ほどの古い時計が置かれていた。しかし、それは今、文字盤が午後3時からわずかにずれていた。

山田は、自分が経験したことの意味を理解できなかった。ただ、何かが変わったことだけは確かだった。

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