西暦2289年。超高層ビルが連なる新東京メガシティ。個人用ドローンが空を行き交い、宇宙旅行が日常となった時代。
鈴木遼は、惑星間通信システムの技術者だった。今日も彼は、宇宙空間を飛行する通信衛星のメンテナンスを遠隔操作していた。
午後3時。彼のデスクに一通の古い封書が届いた。住所も差出人も判読できない、yellowed(黄ばんだ)な封筒。珍しく手書きの手紙だ。
遼が封を切ると、薄い紙に鉛筆で書かれた文字が目に飛び込んできた。
『あなたが今この手紙を読んでいるということは、私の計画が成功したということだ。』
最初の一文から、遼は違和感を覚えた。手紙は続く。
『私は、あなたの祖父の世代に生きていた。この手紙は、正確に2289年の午後3時にあなたの手元に届くよう設計されている。私は、未来のあなたに伝えたいことがある。』
遼は首を傾げた。差出人の名前は記されていない。
『通信技術の発展により、人類は情報を瞬時に伝達できるようになった。しかし、本当に大切なメッセージは、むしろ時間をかけて伝わるべきなのかもしれない。』
手紙は、20世紀末の通信技術について語り始めた。インターネットの誕生、電子メールの普及、そしてSNSの隆盛。情報は早く、簡単に伝わるようになったが、それは本当のコミュニケーションだったのか。
遼は興味深く読み進めた。
『この手紙が、あなたの手に届くということは、私の最大の賭けが成功したことを意味する。』
最後のページをめくると、遼は息を呑んだ。
そこには、彼自身の顔写真が印刷されていた。まるで鏡に映ったかのような、遼その人の姿。
唯一の違いは、その写真の遼が、はるかに年老いていることだった。
手紙の最後の一文が、彼の脳裏に深く刻まれた。
『私は、あなた自身だ。そしてこの手紙は、あなたへの最後のメッセージなのだ。』
遼の周囲の空間が、一瞬、ゆらめいた。
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